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帽子屋さんとかウサギとか出てきますよ。
……でもね、本当は不思議の国のアリスはあんまり良く知らないんだ。
赤いバラと白いバラが咲き乱れる中庭を少し歩くと、開けた場所が見えてきた。
「あ!」
聞きなれた声に、サユリは足を止める。
「サユリん! 遅いよ!」
「アユムちゃん、……それ、何事?」
「え? 何が?」
アユムはいつも、猫耳のように二つに分かれてとがった形をした帽子をかぶっている。見慣れたものだ。でも、今は違う。
立派にぶち模様の猫の耳が、頭の上でぴょこぴょこ動いている。
サユリの視線に気づいたのか、アユムは頭の上に手をやり
「いつもどおりじゃない? 花でも咲いてんのかと思ってびっくりしちゃったよー」
能天気にそういって、ケタケタ笑うと、アユムはサユリの手を引いた。
「それより、サユリん、遅刻遅刻。帽子屋も三月ウサギも待ちくたびれてるよー。帽子屋なんてチョー怒ってて大変なんだからー」
帽子屋。
三月ウサギ。
……不思議の国のアリスみたいだ。
サユリは手を引かれながらそんなことをぼんやり思う。
しばらく歩くと、バラの広場に白いテーブルとイスが用意されていた。
先客が二人、座っている。
「あー、サユリんようやくきたー」
「遅いぞ」
二人が口を開く。
見慣れた二人だ。タローとナカジ。まあ、それはいい。
が、二人とも、いつもと違う。
ナカジは角帽ではなくて、シルクハット。服も燕尾服のようで、赤いリボンがネクタイ代わりにゆれている。
タローは、服装こそいつもと変わらないが、頭にぴょこんとウサギの耳が伸びている。
「……ええと、タローくん、その頭はなに?」
「え? 俺? タローじゃなくて三月ウサギだよ? 頭?」
タローは不思議そうな顔をして頭を触る。そのたびに耳がぴょこぴょこ動く。
あんまり乱雑に頭をごちゃごちゃ触っているのが気になる。耳がちぎれるんじゃないだろうか。
「さっきからサユリん、へんだよ」
アユムが眉を寄せてサユリを見る。
いやいやいや、変なのはアユムちゃんたちですよ?
とは言えず。
サユリは誘われるままにテーブルに着いた。
「では13339回茶会、議題は乱立する有向線分について」
ナカジが口を開く。
「やっぱりさあ、コレは直訴だと思うわけ」
アユムがすぐに手を挙げつつ発言する。
「えー、誰がそれ行くの? 俺やだよー」
タローが机にあごを乗せていやそうに言う。
「あの、何の話?」
サユリが尋ねると、三人が三人とも信じられないといった顔でサユリを見た。
「サユリは困っていないのか?」
「だから、何に?」
「乱立する有向線分についてだ」
「……ええと」
分からない。
何を言っているんだろうか。
有向線分
っていうのがまず何のことか分からない。
「俺、ここまでの近道に、逆方向の有向線分がついちゃって、大変なんだよねー」
タローが愚痴を言う。
「近道せず普通に来い」
「帽子屋は冷たいなあ」
タローがふくれっつらをしたが、ナカジはまったく取り合わない。
なんかウサギ耳がついてようが、いつもと違う格好だろうが、あんまり変わらない気がしてきた。
「問題は誰が有向線分をつけているか、だ」
「神じゃないの?」
「知らん。大体神なんて何処にいるんだ。たまに唐突に現れるのを見るだけだ」
「ともかくこのままじゃ普段の生活が大変だよ」
三人の論議は白熱していくが、サユリにはまったく意味が分からない。
ナカジが(まあ、ここでは帽子屋と呼ばれているみたいだけど)淹れてくれた紅茶を飲みつつ、ぼんやり話を聞くだけだ。アールグレイだろうか、華やかな香りがして、なかなかおいしい。
「サユリんはどう思うの!?」
アユムに唐突に話を振られ、サユリは困った顔をする。
「ええと」
「こんなに気が無いのは初めてだぞサユリ。どこか悪いのか」
「サユリん、調子わるかったの?」
帽子屋ナカジと三月ウサギタローに心配される始末。
「や、別に……」
もう何が何でどうなのやら。
「……仕方ない、今日はお開きだな」
「有向線分、どうにかならないかなあ」
「じゃあ、次のお茶会は来週の今だね」
「では解散」
そんな言葉とともに唐突にお茶会は終わった。
「ええと」
「どうしたサユリ」
座ったまま混乱していると、ナカジが声をかけてくれた。こういう、何気ないやさしさが良いところだと思う。
「……おしまい?」
「そう」
「話解決してないよね?」
「もうずっと解決していないだろ」
知ってるだろ、という口ぶりでナカジは困った顔をする。
「有向線分って」
「俺たちが困っている自然現象。俺たちが支配されている力。お前だって影響受けてるだろ」
「よく分からない」
ナカジが深々としたため息をつく。
「そう、分からないから困っている。目に見えない。でも進めない。そういうものだ」
「……」
「俺はもう帰らないと。帽子を作らないといけない」
「私も帰らなきゃ」
何処へだろうか。
図書館以来、どうもいつもと違うところに居る気がする。
だから、「帰る」なら、「いつも」へ、だ。
「サユリの家へ続く道は、三日前から有向線分がついて捻じ曲がったから、いつもの道は使えない。あっちの出口から行け」
「目に見えないのに、ナカジ君は分かるの?」
「俺はめがねをかけている」
「……あ、そう」
「気をつけてな」
「うん、ありがとう」
言われた道を少し歩くと、唐突にドアが見つかった。
学校の昇降口と同じ形。アルミの枠に、ガラスがはまっている。
サユリはドアを開けた。