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■ナカサユ成立前、夏休み期に突入。
 とりあえず、ナカジ視点夏休み前半、そのサユリ視点、夏休み後半、くらいの予定で。
 夏休み中にかけるといいな。






蝉時雨の中教室へたどりつくと、まだ電気もついていなかった。
窓も閉まったままで、室内は悪夢のように暑い。電気は点けないほうがいいかもしれない。
とりあえず一直線に窓に向かい、すべての窓を開け放つ。どこか遠く聞こえていた蝉しぐれの音量が上がる。世界は暑さでゆがんでいる気がした。
机はすべて教室の後ろ。教室のまん中を牛耳っているのは竹でできた張りぼてと、それに貼るための新聞紙やら何やらだ。
夏休みが終わってすぐにある文化祭の、ウチのクラスの発表物。
寝ている間に決まったから、どういう経緯で決まったのかさっぱり分からないが、某未来から来たネコ型ロボットをウチのクラスは作るらしい。
「猫なんだから耳くらい持ってやがれ」
つぶやいて、時計を見る。集合時間まであと10分というところだ。
「あれ、中嶋君だけ?」
声にドアのほうを見ると、宮永が立っていた。
「時間、9時だったよな」
「うん、そのはずだけど」
「……俺、人来ねえと思う」
「あはは、私もそんな気がする」
会話はそこで途切れる。
6月の、あの雨の日からまともに話したのは今日が初めてだと思うが、そもそも共通話題の一つもない相手。もともとの話下手も加わって会話など成立しない。
仕方なく、張りぼての傍にある机から、紙の束を取った。大変汚い字で「仕様書」と書いてある。仕様書曰く、糊を水で溶いて竹に塗り切った新聞を貼る。その上からまた糊を塗って固める、を繰り返すらしい。
「糊、水で溶いて新聞貼るらしい」
「じゃあ、私糊を水でといてくるね」
ぽつんとひとり教室に残ると、蝉の鳴き声が戻って来た。
それなりに緊張していたのかもしれない。
仕様書を見ながら、新聞を二十センチ四方くらいに切っていく。
今年の文化祭のテーマは「夢」だったような気がしてきた。それでネコ型ロボットなのかもしれない。耳もない青いネコなんてネコだと認めない。


「あれ。宮永、このクラスだったの」

廊下で声。
「うん、そうだよ」
その声に返事をする宮永。
男の声は続ける。
「何か久しぶりじゃね? 中学以来か?」
「私は割と見かけてたけど」
「あれそうなの?」
「でも話すのは久しぶりだね、確かに」
軽やかに会話は続いて行く。とりあえずそちらに視線を動かしてみたが、ドアのところに宮永がいて、相手の存在はこちらからは見えなかった。
その後も会話は続き、文化祭では何をするのか、とか、宿題がどこまで進んだか、など話している。会話の続け方が分からない俺としては、そういう他愛のない話題を提供できるだけでも尊敬に値する。
「じゃあ、またな」
ふらりと振った手だけが見えた。

見送る宮永。

の、
表情。


少し頬が赤いのは、きっと夏の暑さのせいじゃないだろう。
泣きそうなような、どこかほっとしたような。複雑な。
どこかへ溶けてなくなってしまいそうな。


あの時の顔だ。
5月の、野球部を見てた時の。


ああ、そうか。
俺は。
誰かに恋をしている宮永に惚れたのだ。
それなら、実らなくて当然だったのかもしれない。
みのってはいけなかったのだ。多分。

「ごめんね、遅くなって」
「別に」
「どうするの?」
「刷毛で糊塗って新聞を貼る」
「そう」

以後、無言。

会話は続かない。
ただ、黙々と作業は続く。
宮永の白い手がきれいだ。しかしいたたまれない。
俺はこんな状況でも実は宮永がいるってことでそれなりに楽しいが(そしてそういう風に感じる自分にあきれる)、宮永はたいして楽しくもなかろう。
暑さと人数の少なさから作業は遅々としてはかどらないし、会話が弾むわけでもない。二人して黙々と新聞紙を貼っているだけであり、その人選は振った振られたの間柄だ。
「人、来ないね」
「部活か忘れてるか確信犯か」
「……確信犯じゃなきゃ、いいなあ」
そして二人でため息。
「終了予定時刻は何時だった?」
「えっと、12時だったと思う」
「誰も来なかったらそれより前に終わっちまおう」
「そうだね、それも良いかも」

再び、無言。

会話ってどうやって続けるんだったか。
もともと苦手だったが、それでももうちょっと話せてもよさそうなものだ。
ままならないものだ。

「あ、糊、無くなってきたからもう一回水でのばしてくるね」
「分かった」


「あれ、ナカジ一人?」
「盛大な遅刻だな」
やって来たタローにとりあえず怒りをぶつける。
「来ただけでも偉いでしょー。ねえ一人?」
「宮永がいる。今糊つくりに行った」
「そっか。二人きりだったのか。ごめんねー」
「仕事するなら構わない」
「どうせナカジのことだから無言でいて変なプレッシャー与えてたんだろー。もー、サユリんのこと好きなんだからもっと上手にしなよー」


は?


「お前何言ってんの」
「だから、スキでしょ。サユリんのこと。見てたら分かるよ」
なんてことないようにタローは言い放つ。当たり前のことを、当たり前のようにいいました、という顔で。
「……そんなにバレ易いか俺」
暗に認めて、俺は尋ねる。するとタローは能天気に答えた。
「んー、まあ、俺はナカジと付き合い長いから分かるけどー。クラスの奴らは気付かないと思うよ。一般的にはナカジ分かりにくいらしいから。俺は分かるけど」
俺は分かるとか何度も言うなよ気味が悪い。
「どこで見分けてんだ」
「それ教えたらナカジ上手に隠すから言わない。でもホント気付かれてないと思うよ。サユリんにも」
「宮永は知ってる」
「なんで?」
「告白したから」
「うそん! 何その電光石火! で、どうだったの」
「見てたらわかるだろ」
「……あー」
超納得声。なんだそれ。
「腹立つ」
「……見る目ねえなほんとにサユリん」
「は?」
「いやまあ独り言」
タローはにやにや笑うと、俺に向き直った。
「ねえ、サユリんのどこが好き?」
「いつ本人帰ってくるか分からん状況で言えるか莫迦か」
「だから帰ってくるまでに白状しちゃえよナカジ」
「……」
「そんな目しても別に怖くないんだよ。もう慣れてるんだよ。付き合い長いんだから」
この勢いでは本人が帰ってきても聞いてくるかもしれない。手短に済ませたほうが得策とみた。
「……最初は、雰囲気だな。それから気になって見てるうちに、な。気配りできるし、頭いいし、……かわいいな、いい子だな、と。もうこれでいいだろ」
「十分十分」
タローはにやにやと満足そうに笑った。腹が立つ。
「これ終わったらアイスおごるよナカジ。遅刻のお詫びと良い話聞いたお礼」
「腹立つ」
「うまくいくといいねえ。応援するよ」
「いらんわ。ノーサンキューだ」
「じゃあ嫌いになるの?」
「そんな単純じゃないだろ。ダメだったからってすっぱり人間の気持ちが切り替わるわけないだろ。TVのチャンネルじゃねえんだから。……ま、良いんだ。いつか消えるだろ、こんな不確かな感情は。それまでは残しとく」
「あそう?」
しばらく無言でいたら、「遅くなってごめん」などと言いながら宮永が帰って来た。
それから黙々と作業を続け(といっても黙っていたのは俺だけで、宮永とタローは楽しそうに談笑しながらだったが)予定通り昼前に打ち切ってタローにアイスをおごらせた。
そのまま三人で駅前のマックで昼飯を食って、それから分かれた。


気がついたら、三人での夏祭りの予定が、携帯のカレンダーに残されていた。




 


■無駄に長くてごめんなさい。
 そのうえ全然前進がありません。

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