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■「夏の初め」の、サユリ視点です。
なんか、もう、ごちゃごちゃしてきて、自分でも何が何だか良くわからなくなってきました。




暑い中教室に着くと、中には中嶋君が一人ポツンと立っていた。
電気も点けないで、教室のまん中にある竹の張りぼてを見詰めている。
開け放った窓から太陽の光。逆光でみる中嶋君は、何故だかとてもさみしそうに見えた。

「あれ、中嶋君だけ?」
なるべく明るい声で声をかけると、中嶋君がこっちをみた。そして困ったような声で私に尋ねる。
「時間、9時だったよな」
「うん、そのはずだけど」
「……俺、人来ねえと思う」
「あはは、私もそんな気がする」


まともに話したのって、すごく久しぶりな気がする。あの雨の日以来かも。
それどころか、あの日からあんまりちゃんと中嶋君を見た記憶がない。
中嶋君は平然としてるけど、私も平然としていられたけど、やっぱり気にならないわけじゃない。
どうしても、負い目を感じてしまう。
私はあんまり積極的に話すほうではないし、中嶋君も話すほうじゃないから、会話はそこで途切れる。
中嶋君は私から視線を外して、竹の張りぼての隣にある机から紙の束を取り上げた。どうやらそれが説明書になっているみたい。ぱらぱらと中を見ながら、中嶋君は唐突に「糊、水で溶いて新聞貼るらしい」と、説明した。

「じゃあ、私糊を水でといてくるね」
ちょっと助かった気分で、糊と器を受け取ると教室を後にする。
ホッとして、大きく息を吐く。
私は別に悪いことをしたわけじゃない。
でも、中嶋君もべつに悪いことをしたわけじゃない。
なのになんでこんなに気が重いんだろう。

ため息をつきつつ、出来上がった糊を持って教室に戻り始めると、向こうからあの子が来た。
夏休みなのに。こんなときに。


「あれ。宮永、このクラスだったの」
名前覚えてくれてたんだ。びっくりした。
「うん、そうだよ」
緊張しながらうなずく。声、震えてないかなあ。心配。
「何か久しぶりじゃね? 中学以来か?」
「私は割と見かけてたけど」
「あれそうなの?」
「でも話すのは久しぶりだね、確かに」
意図的に頑張ってにっこり笑う。笑ったはず。笑えてるかなあ。
そのあとも話は弾む。
文化祭では何するのか、とか、宿題難しくないか、どこまで進んだ?とか。
他愛ない話だけど、私に話しかけてくれてる。それが嬉しい。
ひとしきり話すと、「じゃあ、またな」って、手を振って昇降口のほうへ歩いて行く。


その後ろ姿を見送る。


いつだって、見送るばっかり。
いつかどこかで勇気を出してたら、答えは変わってたのかなあ。
見送るだけじゃなくて、一緒に歩いたりできたのかな。

泣きそう。


一回大きく深呼吸してから、教室に戻る。

「ごめんね、遅くなって」
「別に」
中嶋君はそっけなく答えた。目は手元のままで、どうやら新聞を切っていてくれたらしい。
「どうするの?」
「刷毛で糊塗って新聞を貼る」
さっきも聞いた説明を繰り返す。
「そう」

そのあとは、また無言。

会話は続かない。
中嶋君は、ひたすら黙々と作業する。それにつられて私も作業。
話は全くない。
もしかして、中嶋君は怒ってるんじゃないだろうか。
ちらっと表情を盗み見てみても、無表情で何も感情は読みとれない。
内心ため息をついて、作業を続ける。早く誰か来てくれればいいのに。


「人、来ないね」
「部活か忘れてるか確信犯か」
中嶋君は淡々と答えながら、新聞を貼りつける。丁寧にしわができないように貼るあたり、神経質なのかもしれない。
「……確信犯じゃなきゃ、いいなあ」
私の答えに、二人でため息。
「終了予定時刻は何時だった?」
「えっと、12時だったと思う」
「誰も来なかったらそれより前に終わっちまおう」
「そうだね、それも良いかも」

再び、無言。

「あ、糊、無くなってきたからもう一回水でのばしてくるね」
「分かった」
今度も助かった気分で、器をもって外に出る。
大きく深呼吸。
しばらく水道のところでぼーっとする。
他に誰か来てくれればいいのに。
ため息をついて、教室に戻る。
入る直前、声がした。思わず立ち止まって、中の様子をうかがう。壁にくっつくと、冷たくて気持ちが良かった。

 

「どうせナカジのことだから無言でいて変なプレッシャー与えてたんだろー。もー、サユリんのこと好きなんだからもっと上手にしなよー」


タローちゃんの声だ。
確かにちょっと気は重かったけど。何でわかるんだろう。それよりなんでタローちゃん、「中嶋君の好きな人」知ってるんだろう。
私の混乱は、同じく中嶋君の混乱でもあったようで、中嶋君は動揺したような声でタローちゃんに言う。
「お前何言ってんの」
「だから、スキでしょ。サユリんのこと。見てたら分かるよ」
なんてことないようにタローちゃんは言い放つ。当たり前のことを、当たり前のようにいいました、という顔。

見てて分からなかったよ、私当事者だけど全然分からなかったよ?
なんでー?

「……そんなにバレ易いか俺」
「んー、まあ、俺はナカジと付き合い長いから分かるけどー。クラスの奴らは気付かないと思うよ。一般的にはナカジ分かりにくいらしいから。俺は分かるけど」
「どこで見分けてんだ」
「それ教えたらナカジ上手に隠すから言わない。でもホント気付かれてないと思うよ。サユリんにも」

ごめん、そこは知ってるんだタローちゃん。

「宮永は知ってる」
「なんで?」
「告白したから」
「うそん! 何その電光石火! で、どうだったの」
タローちゃん、目、すごく輝いてます。おもちゃもらった子どもみたい。
「見てたらわかるだろ」
「……あー」
「腹立つ」

そのあと、ちょっとタローちゃんが何か言ったみたいだったけど、聞き取れなかった。
中嶋君も聞こえなかったみたいで聞き返したけど、タローちゃんは適当に言葉を濁して、そのまま話を続ける。

「ねえ、サユリんのどこが好き?」

それは、聞きたい。
ずっと考えて、でも全然分からなかった。
中嶋君が、私の何をどう感じて「好き」だなんて言ってくれたのか。

「いつ本人帰ってくるか分からん状況で言えるか莫迦か」

しばらく帰らないから大丈夫だよ中嶋君。
立ち聞きって悪いことだけど、これは聞きたい。
だから。
だから早く答えちゃってください。

「だから帰ってくるまでに白状しちゃえよナカジ」
「……」
「そんな目しても別に怖くないんだよ。もう慣れてるんだよ。付き合い長いんだから」
「……最初は、雰囲気だな。それから気になって見てるうちに、な。気配りできるし、頭いいし、……かわいいな、いい子だな、と。もうこれでいいだろ」

……可愛い。いい子。

よもやそんな言葉を中嶋君から聞こうとは。
しかもそれが自分に対する評価だなんて。
どうしよう、恥ずかしい。

「十分十分。これ終わったらアイスおごるよナカジ。遅刻のお詫びと良い話聞いたお礼」
「腹立つ」
「うまくいくといいねえ。応援するよ」
「いらんわ。ノーサンキューだ」
「じゃあ嫌いになるの?」

「そんな単純じゃないだろ。ダメだったからってすっぱり人間の気持ちが切り替わるわけないだろ。TVのチャンネルじゃねえんだから」

そうだよね、すぐには切り替わらないよね。
私がずっとあの子を好きなように。
多分まだしばらく、中嶋君の気持ちも切り替わらないだろう。
それは、仕方ないことなんだ。お互いに。

「……ま、良いんだ。いつか消えるだろ、こんな不確かな感情は。それまでは残しとく」

そう言って、中嶋君は諦めたように笑った、ように思う。
実際には逆光で、中嶋君のメガネだけが光を反射しててほとんど表情なんて見えないのに。

少し、どきりとした。

 

「遅くなってごめん」
少し時間を取って、それから今来ました、という顔をして教室に入る。
「あれ、タローちゃんだ」
「来たよー」
「遅刻だって言ってるだろう」
「くるだけましだって言ってるじゃん。あ、サユリん、この後あいてる? ナカジがアイスおごれってうるさいからおごるんだけど、サユリんも食べる?」
「まるで俺が催促したみたいに言うな!」
「じゃあ、アイスティー」
「ちょっと聞いたナカジ! 女の子だよね! アイスじゃないんだよ飲み物なんだよ!? 食い気に走るナカジとは違うね!」
「喧しい死ね」
「ひどい! ひどいよナカジ!」
私はその掛け合いに少し笑ってしまって、そのあとはタローちゃんと和気あいあいと話しながら仕事をした。その間も中嶋君は黙々と、黙ったままで仕事をしていた。
時々、その表情を盗み見てみたけど、やっぱりどうしても何を考えてみるのか分からなかった。

タローちゃんの言うように、分かりやすいなんて絶対にない。
そして中嶋君が言うように、中嶋君が私を好きだなんて絶対に感じられない。
私の、何がいいんだろう。


良くわからないまま予定より少し早く作業を終えて、三人で片づけをした。それから予告通り学校近くのコンビニでタローちゃんと中嶋君はガリガリ君を食べ、私はペットボトルのアイスティーを飲む。
そのまま「じゃあついでにお昼も食べちゃおうー。マックの割引券持ってるんだ俺―」なんて言ったタローちゃんに引きずられて、三人で駅前のマックにまで寄ることになった。
何でこんなことになったんだっけ、なんてその時には思わせないタローちゃんは、きっと何かの才能があるんだと思う。

「サユリん今日俺とナカジの会話聞いてたでしょ」
中嶋君がお手洗いに立った時、タローちゃんは私を見てにやっと笑ってこう言った。
「へ?」
かあ、と顔が熱くなった。タローちゃんはそんな私を見て、ニヤッと笑う。
「大丈夫大丈夫、ナカジは気付いてないよ。サユリんナカジの位置からは死角だったから。……ナカジはいい奴だよ。気づかれにくいけど。野球部のあいつよりよっぽどいいよ」
「え?」
「だからね、見てたら分かるんだよ。ナカジも、サユリんも、分かりやすいから」
タローちゃんはお手洗いのほうをちらっとみて、それからナカジ君のトレーからポテトをつかむと口に放り込む。
「ナカジは本当にいい奴だよ。とっつきにくいけど、懐に入り込んだら良くわかるよ。表現は上手じゃないけど、やさしいよ。基本受け身で自分から欲しがらない人なんだけどね、色々諦めてる人だから。諦観っていうんだって。ナカジの使う言葉って難しくてさ、良くわからないんだけど。……でも、そんなナカジが思ってること言ったんだもん、よっぽどのことなんだよ。よっぽど欲しかったんだよ、サユリんのこと。よっぽど、なんだよ。好きなの」
タローちゃんはそこで少し目を伏せた。
「そうなのかな」
「そうだよ。本気だよ」
「……そっか」
「そうだよ」


「てめえポテト食ったろ」
席に戻った中嶋君は、トレイのポテトを見て開口一番そういった。
「何の事だかさっぱり」
「宮永」
「食べてた」
「ひどいサユリん!」
不機嫌そうに中嶋君は席に着くと、そのまま頬杖をついて黙ってしまった。
「あ、そうだ、ねえ、夏祭りっていつ?」
タローちゃんは唐突にそういうと、私と中嶋君を交互に見た。
「えっとね、八月の初めごろ。第一土曜日じゃなかったかな?」
「その日暇?」
「私はまだ予定ないよ」
「俺もない」
「じゃあ行こう、三人で」
「は?」
「ハイ携帯開いて! 第一土曜日いつ?」
「7日だけど」
「予定入れて! はい記入! 集合5時!」
思わずつられて私は携帯にその予定を入れてしまって、タローちゃんは自分の携帯と、中嶋君の携帯に予定を入れていた。

 

二人と別れてから、携帯を見詰める。
「……何でこんなことになったかなあ……」
困惑したまま、8月を迎える。



 


■書けば書くほど、タローちゃんが分からなくなってきた。
 もうどうしたらいいんだ。
 8月の祭り編に続く。……続くのか。

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