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■前回の「雨に流れる」の後日談。
タローちゃんが意地悪。



中嶋君には、何の変化もないように見えた。
机に突っ伏すような体勢で文庫本を読んでいる。

私は結局ぐるぐる考えてしまって、ほとんど夜眠れなかったのに。
ずるい、ずるい、ひたすらずるい。
言うだけ言って混乱させて。

「あれナカジ調子悪いの」
だからタローちゃんがそういったとき、私は中嶋君もやっぱり色々有ったんだなとちょっと安心してしまった。

おかしな話だけど。
ちゃんと中嶋君も同い年の人の子だったのだなあ、なんて思ってしまった。
なんかちょっと、達観してて同い年に思えない時があるから。

「別に」
「だって顔色変だよ、熱あるでしょ」
「微熱」
「えー、そうなの? 昨日の雨? でもナカジいつも傘持ってるじゃん」
「持って無い日もある」
「そういうとこ間が悪いよねナカジって」

そうなのよ間が悪いのよ。
間が悪いし、すっごく唐突だし、訳がわからないのよ。
今だって、傘が無かったことにしてるし。
格好つけても仕方ないのに。

「ほっとけ」
「んー」
タローちゃんはしばらく中嶋君の顔を覗き込んで、それから首をかしげた。
「ほんとに微熱?」
疑うようにそう言って、タローちゃんは中嶋君の額に手を押し当てて。
「うっわ! おでこでパンが焼けそうじゃん!」
「焼けるか莫迦か」
「これ微熱じゃないね、微熱じゃないね、世間的には微熱じゃないね、つーか学校来んなよこの熱で!」
「微熱だって言ってるだろ」
「び・ね・つ・じゃ・ね・え! って言ってんの!」
「……」
「……」
しばらく、二人はにらみ合い。
「微熱じゃないよナカジさん」
ため息つくタローちゃんに、中嶋君はピースサインみたいに指を二本立ててタローちゃんに見せた。
「2……2限目の生物は出たい……今日実験するって言ってた……」
「OK分かった。……と言いたいけど、実際心配だなあ」
タローちゃんはもう一回中嶋君のおでこに右手をあてて、自分の左手で自分のおでこを触る。
「これさあ、微熱じゃないよねえ」
「お前さっきから同じことしか言ってねえよ」
「高熱? っての? あれでしょ、雨に当たった後すぐあったまらなかったでしょ。家近いんだから、濡れ続けて根性で家まで我慢とかありえないし」
「風呂入るような精神状態じゃなかったんだ」
「へー」
タローちゃんはしばらく中嶋君を見た。
「……失恋?」
「何だそれ」
「違ったかー」
タローちゃんはたはは、と笑うと中嶋君を見た。反面、中嶋君の顔は随分険しい。タローちゃんを睨みつけるように見ている。
「そもそもどこからでた発想だそれは」
「なんとなく。動けなくなるショックってなにかなーって。」
「失う以前に恋してねえよ」
「あらそう」

……ウソツキ。

「……だりぃー」
中嶋君は机に再び突っ伏すと、つぶやくようにそう言った。
「やっぱ帰れよ、高熱なんだし。おでこでパンが焼けるんだし」
「焼けねえっつってんだよ。オメガ莫迦」
「でもさー。まあ、今回は失う以前に恋してなかったけどさー。そういうことにしとくけどさー」
タローちゃんはぐるりと教室を見回した。
「実際問題、ナカジ振ったら莫迦じゃん?」
「お前は世論を知れ」
「世論のナカジ評価が間違ってると思うね、俺は」
「お前が物好きなだけ」
「そっかなー。もうあれじゃん、俺の愛。あふれんばかりのナカジに対する俺の愛。受け取れ俺の愛」
「願い下げだ。要らんわそんな気色悪いもん」
「俺、恋するのは悪くないと思うよナカジ」
「してねって言ってるだろしつこいぞ莫迦」
「すればって言ってんの」
きしし、とタローちゃんは笑う。中嶋君は居心地悪そうに鼻にしわを寄せた。
そしてまた机に突っ伏して大きく息を吐く。
「何なら俺、ナカジおぶって帰ろうか?」
「だから要らんと言うに、何の善意だ暑苦しい」
「人の好意は素直に受取ろうぜナカジ!」
「暑苦しい。というか暑い」
「風邪だからだよ」
「あー面倒くせえ」


と。
中嶋君と唐突に目が合った。
その途端、中嶋君の顔からすーっと表情が消えた。
ああ、人って一瞬で変化するものなんだな、とどこか遠い気分で思った。

「タロー」
「何」
「帰る。2限目の実験、見といて」
「ん、分かった」
中嶋君はそのままざくざくとカバンの中に教科書やらなにやら詰め込むと立ち上がった。
「じゃあな」
「うん、センセに言っとく」
中嶋君はそれだけタローちゃんに言い置くと、そのまま振り返りもせず帰って行った。

タローちゃんは中嶋君が出しっぱなしにしていった椅子を片づけながら、教室をぐるりと見渡した。
で、私と目が合うと、一直線に私のほうへ歩いてくる。
「おっはよサユリん」
「おはようタローちゃん」
にしし、とタローちゃんは笑うと、そのまま自分の席へ行くために私の横を通って行く。

 

「見る目ないね、サユリん」

 

すれ違う時、それだけを言い残して。



 




■一応、この話にはざっくりした時系列がありまして。
これで漸く6月の話が終わりました。

ってまだ6月なのか。
先は長いな。

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