声だけは

■久々にＢＬを書くので、なんか色々おかしいかも。
一応、切ない系？　を目指してみた、感じ。

タロー→ナカジ的な。

世間のイメージからずれてるかも知れませんが、世間を良く知らんので生暖かく見守りつつスルーしていただけるとありがたいです。

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彼は人付き合いが苦手だ。
必要がなければ、数日人と話さなくても平気。
しかも、たちのわるいことに、彼は頭がいい。
勉強はいつもトップクラス。
だから、皆誤解する。
やっかみも込めて、彼を敬遠する。
曰く、あいつ怖い。苦手。暗いし。冷たそう。

皆分かってないなぁ、と思う。
彼は本当は優しい。
人を見捨てたりしない。
口は悪いけど、言うことは正しい。
興にのれば、笑い話のひとつもする。
皆分かってないなぁ。
彼だって、同じ歳の、血の通った人間だよ。

ちょっと誤解されやすいけど。





『声だけは。』





彼は人付き合いが苦手だ。

だから、その話に俺はちょっと、かなり、間違いなく、衝撃を受けた。
「好きな子ができた」
「え、マジで」
「嘘でこんなこと言うか」
「だよねぇ、だよねぇ、そりゃそうだ？」
俺は答えて、彼をまじまじと見る。
メガネの向こうの目は、こっちを見てない。恥ずかしいのか、伏し目。マフラー
に隠れて分かりにくいけど、耳とか頬とか、かなり赤い。
長いこと友達やってきたけど、こーいう顔は初めて見る。

「え、え、誰なの誰なの」
俺は勢いこんで、彼に詰め寄る。
ぼそりと返ってきた名前に、ああ、彼らしい選択だと納得する。
クラスですごく目立つわけじゃない、清楚で、優しい子。
サユリちゃん。


複雑な気分だ。

単純に嬉しい。
それは嘘じゃない。
人に興味なかった彼が、初めて人を好きだと言ったこと。
その事を、俺に報告してくれたこと。

「応援するよー」
「応援はいらん、邪魔しないでくれればそれでいい」
「邪魔とかしないし！」


笑えてるかな、俺。

複雑。

ねえ、俺もさ、好きなんだけど。
サユリちゃんじゃないよ。
ナカジ。
俺さ、ナカジの事好きなんだけど。

ひた隠しにしてきたし、これからだって公開する予定はないけど。


友達としてじゃないよ。
いっぱい、欲望つまった「好き」だよ。
ナカジがサユリちゃんに抱いてる「好き」がどのくらい清らかか知らないけどさ
。
少なくとも、俺のナカジに抱いてる「好き」はどす黒い。


本当は
キスしたいし、
裸でイチャイチャしたいよ。

そんなこと、言わないけどさ。
知られたら、友達ですらいられなくなるから、絶対言わないけどさ。
友達ですら、ナカジにとっては特別なの、知ってるからさ。


複雑だ。
俺、喜んでいいのか、嫉妬していいのか、なんかよくわからない。

わからないけど。

「ともかく、応援する。うまくいくといいな」
「だから、応援なんていらねぇってんだろ」


その後、半年くらいして、ナカジはサユリちゃんと付き合い始めた。
ナカジがサユリちゃんにどんなふうに何を言ったか、俺は知らない。
知りたくない。
ただ、ナカジが嬉しそうにしてるのを見るのは好きだ。
サユリちゃんを見るとき、いつもより優しい目をしているのを見るのも好きだ。
普段の仏頂面が、時々緩むのも可愛いと思う。
それが、自分に向けられてなくても、あんまり気にならない。

ナカジが幸せなのが、やっぱいい。
あいかわらず、俺はナカジの友達だし、ナカジが変わっていくのは、悪いことじ
ゃないし。


自分でもこんな寛容だったかってちょっとビックリだし、発見だけど。

そもそも、独り占めできないことがわかってたからこその感情だと思うけど。



サユリちゃん。
ナカジは良い奴だろ？
受け入れてくれてありがとう。

ナカジの
心も体も、髪の一本まで、
サユリちゃんが独り占めしていいよ。

嫌わないで、ずっと一緒にいたげてよ。
多分、ないと思うけど、ナカジの熱がさめるまで。

ずっと、独り占めしてていいよ。


今まで、俺くらいしか気付いてなかった、ナカジの些細なクセとか、俺とサユリ
ちゃんとで共有しようよ。

あとは全部、独り占めしていいからさ。


サユリちゃん。



ナカジの声だけは、
俺にもわけて。