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『蒼に溶ける』の、さゆりちゃん視点。
ナカジのほうはさゆりちゃんを強烈に意識したのに対し、まだナカジをなんとも思ってないさゆりちゃん。





ああ、
だって仕方ないよね。
何にもしなかったんだもん。


仕方、ないよ。



『世界駆け巡れ』


失恋した。



入学してからずっと好きだったんだけど、見てるしかなかった、野球部の子。
結局、何もいえない、
違う、言わないまま。
あの子が女の子と歩いてるのを目撃して。
それでおしまい。

お姉さんとか妹さんとか。
一瞬そんな淡い期待もしてみたけど、そんなことを考える時点で、きっとダメ。

せめて今の気持ちを書き留めてみようと思ったけど、それもうまくいかない。

当たり前。

だって何もしなかったんだから。
何もしなかったってことを後悔しても、それ以外のことが書けるわけ無い。

白いノートを見つめていると、涙が出てきた。


変なの。
でも、もうちょっと、泣こうかな。
そのほうがすっきりするかな。
放課後の教室に、誰かが来るわけないし。


そう思ってたら、閉まっていた扉がいきなり開いた。
扉を開けた人は、多分放課後の教室に誰かいるとは思ってなかったんだろう。私のほうをみて、呆然と立ち尽くしている。

クラスメイト。
女の子ならまだしも、男の子。
しかも、よりにもよって中嶋君だ。

別に囃し立てたりしない人だろうけど、何考えてるか分からないし、いつも不機嫌そうで、苦手。
誰かと仲良くしてるのも、見たことないし。
あれ、村次くんにはなつかれてたっけ?

そんなことをぼんやり考えて、中嶋君が困惑しているのに気づく。



あ、
涙。



私、泣いてた。
慌てて目の辺りをぐいっと拭う。
「あ、いや、その、違うの!」
両手を開いて中嶋君にむけ、慌てて振って見せる。
何が違うのか、自分でも良く分からない。中嶋君のほうはもっと分からないに違いない。

泣き止みたい。
でも頬を伝う涙。
ああ、最悪。
「やだな、えと」
慌てたまま、手の甲で目を拭う。
泣き止まなきゃ。
泣き止まなきゃ。
焦れば焦るほど、涙が出る。


中嶋君は扉のところでしばらく立ったままだったけど、いきなり一直線に私のほうに歩いてきた。
怖い。
無表情だし、目が怒ってるし。

ごめんなさい、ごめんなさい、泣いててごめんなさい。


声も出ないで固まって座ったままで居る。
もう、今日は厄日だ。
失恋はするし、中嶋君は怒らせるし。


中嶋君は私の前に立つと、唐突にポケットに手を入れてハンカチを取り出した。
綺麗な、青色。
マフラーといい、青色好きなのかな。
それを無言で突き出す。
「え?」
きょとん、と中嶋君を見る。
「良かったら使え。厭なら使わなくても良い。そして使ったら捨てろ」
言うだけ胃って、中嶋君は自分の席へ。机の中を覗いて、数学のワークを取り出した。あ、宿題か。
ここから見える中嶋君の背中は不機嫌そうだ。
あ、お礼言ってない。
言わなきゃ。
泣いている理由も聞かないで、ハンカチ貸してくれたんだし。
ハンカチ持ってるけど、ここは中嶋君の優しさに甘えておこう。

怖い人かと思ってたけど、そうじゃないみたい。


「あの、あ、ありがとう」
「別に」
中嶋君はそっけない。
「ごめんなさい」
思わず頭を下げながら、謝る。
だって絶対、中嶋君を困らせてる。
「何を謝る」
「困ったでしょう?」
答えるために顔を上げて、首をかしげる。
中嶋君はうなずいた。
「だよねえ」
小さく答える。私も、親しくない人が泣いてる場面に遭遇したら、困る。
なのに、中嶋君は私の席のほうへやってくると、一つ前の席のイスを引き出して、私のほうを向いて座った。
なんでだろう。よく分からない。
私の驚きなんて気にしてないのか、中嶋君は口を開く。
「其方も困っただろう、乱入者など」
「よく分からない」
自分で答えにびっくり。
でも、それはつまり。
「発見されてよかったかな、って。際限なく泣いてたかも知れないし。すっごく馬鹿な話なんだけどね」
言って、中嶋君が嫌そうな顔をしたのに気づく。
そりゃそうだ、この上打ち明け話なんて、本当に困るもん。


「なんてね。聞きたくないよね。ごめんなさい」
そういって、笑ってみせる。
大丈夫、って。
中嶋君、私に捕まってないで、早く帰りなよ。

中嶋君はしばらく黙って、私のほうを見ていた。
気のせいかもしれないけど、中嶋君の周りの空気がふわっと変わった気がした。

「別に」
中嶋君の答え。
彼自身がそれに驚いているようにも見えた。

ここまで来たら、もう、中嶋君に甘えてしまおう。
全部吐き出して、
そしたら、楽になれるかもしれない。
中嶋君、ごめんね。


「好きな人が居たの」
「ほう」
「でもね、何も言えないうちに、その人、彼女が出来ちゃった」
そう言って、窓の外を見る。
野球部が練習してる。
あの子は今日も元気そう。
それだけで、いい。


「馬鹿みたいだよね」
「そうだな、莫迦みたいだ」
一刀両断。
それも中嶋君らしい。
なんだか、それが可笑しい。
「あはは、中嶋君、厳しいね」
「宮永ではなく」
ぼそりとした返事に、私は中嶋君を見る。
顔を半分隠した青いマフラーで、表情はあんまり分からない。
四角いメガネの向こうの目は、相変わらずいつもどおり不機嫌そう。
「え? じゃあ、誰?」
「……」

中嶋君は答えない。


ただ、不機嫌そうに窓の外を見た。
横顔。
あ、
意外にまつげが長い。
よく見れば、綺麗な顔立ちなんだ。
帽子やメガネやマフラーで目立たないけど。
発見。


まあ、発見しても何も無いけど。


「聞いてくれてありがとう。なんだか、気楽になった」

そう云うと、
机に開いてあったノートを一枚破って
今日の日付と、
さようなら、の五文字を書く。

書きたかったのは、きっとこういうこと。

「飛行機って、どうだっけ?」
教えてもらう前に思い出して、飛行機を折る。


翼を持った言葉は
教室を横切って、
開いた窓から外に飛んでいく。



なんだろう。
すっきりした。



「ハンカチ、洗って返すね。ごめんね、ありがとう」
「要らん。捨てろ」


答えると、中嶋君はいきなり立ちあがって、不機嫌そうなまま教室を出て行った。


涙はもう、出ない。


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