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■記念すべき初作品。
凛としたような、そのくせ脆いような、なんだか不思議なさゆりさんの魅力。
そういうのに慣れていない青少年が、ぽーっとしてしまった話。






莫迦莫迦しい。
兎角この世というものは。
愛だ恋だと浮かれ果て。
行き着く先が何処だというのか。



『 蒼 に 解け る 』


ち。


舌打ちする。
煩わしいことに、下駄箱まで来たところで忘れ物に気づく。
世界は騒々しく、部活動の音がする。外れた音のトランペット。野球部の掛け声。
何がそんなに楽しいのか。
否それより忘れ物だ。教室は四階。
どうしたものか。
暫し逡巡。
数学教師が出した課題頁は少なくは無い。明日登校してから授業が始まるまでの時間に済ませるだけの量ではない。

再び舌打ち。

踵を返して教室へ向かう。
手っ取り早く済ませよう。教室まで駆け上がり、ワークを取って再び走ってここまでくれば、所要時間は五分も無いだろう。
急ぐ用件は無いが、学校からは早く出たい。
駆け足。
人も疎らな廊下を駆け抜け、階段を一段飛ばしで進む。
四階、一番奥。
教室の閉まっていた扉を乱暴に開ける。
どうせ放課後、人など居るまい。


だから、一瞬反応が出来なかった。
窓際の席。
青空を背景に、女子が一人。
宮永。

きらり、光、何かが頬を伝い机に落ちていった。

何か書きものでもしていたのか、手にペンを持った姿でこちらを呆然と見て。
慌てて目の辺りをぐいっと拭った。


やはり、先程見てしまったものは。

「あ、いや、その、違うの!」
宮永は慌てて両手を開いて此方に向け、何度も振ってみせる。
一体何が「違う」というのか。
そもそも訂正するような事項は何も無い。
頬を伝っていく涙。

人の、
しかも女子の、
泣いている所に遭遇してしまった。
厄介なことだ。

「やだな、えと」
慌てたまま、手の甲で目を拭う。
互いに、困ったことこの上ない。

考える。

クラスの女子だが、別に親しいわけではない。
尤も、クラスメイトと仲良くするような手間は放棄したから、親しい奴など誰も居ないのだが。

放っておいても良い気がする。
少なくとも、自分なら、放っておいてほしい。
男子なら、確実にほうっておく。

しかし宮永は女子だ。
泣いている女子を無視して放っておく程、腐った心算は無い。
(そして泣いている女子を放っておいたなどということが、姉に知れようものなら自分の身が危ない)

数秒考える。


ずかずかと宮永の席まで行き、前に立つ。
ポケットに手を突っ込み、ハンカチを出した。今日も普通に使ったが仕方あるまい。何せ放課後だ。
無言で突き出す。
「え?」
きょとん、と宮永は此方を見た。
「良かったら使え。厭なら使わなくても良い。そして使ったら捨てろ」
宮永が受け取った事だけを確認して、自分の机へ移動する。課題の数学ワークは、机の中に入っていた。
これを忘れさえしなければ、こんなことにならなかったのに。
舌打ち、しようとして自重する。
これ以上萎縮させても仕方ない。
「あの、あ、ありがとう」
宮永の声。
ほとんど記憶していない声だったが、澄んだ音色をしている。
「別に」
答える義理くらいはある。
「ごめんなさい」
「何を謝る」
ワークを鞄に入れ、宮永のほうを見る。座ったままだが、わざわざ頭を下げていた。
律儀な性格をしているのかもしれない。
「困ったでしょう?」
顔を上げ、小首をかしげる。
その様に、返答はせずうなずくと、「だよねえ」と小さな声。
会話をするのに向かない音量だ。
とりあえず宮永の席まで移動して、その前の席に座った。
毒食わば皿まで。
会話くらいはしても良い。
「其方も困っただろう、乱入者など」
「よく分からない」

答えに唖然。
思わず宮永をまじまじと見る。
しかしそんな此方には構わず、彼女は続ける。
「発見されてよかったかな、って。際限なく泣いてたかも知れないし。すっごく馬鹿な話なんだけどね」
宮永は窓の外を見てぽつりと呟く。
拙い。
これは話を聞かされる流れだ。
そんな面倒臭いことは御免だ。

「なんてね。聞きたくないよね。ごめんなさい」
そういって、宮永は弱弱しく笑った。


輪郭がぼやけて、
窓の外の青空に溶けていきそうで。

多分、
そういう何か抗えない何かがあって。

多分息を止めた。

そういう、「何か」が変わる瞬間があったのは確かだ。


だから気がついたら「別に」等と答えていた。
自分で自分に唖然としてしまう。
何が起こったのか、自分でも良く分からない。


「好きな人がね、居たの」
過去形。
「ほう」
答える。
「でもね、何にも言えないうちに、その子、彼女が出来ちゃった」
そういって、宮永は窓の外を見る。
釣られて其方を見ると、野球部が青臭い青春を謳歌していた。
その中に、居るのか居ないのか知りはしないが。
「馬鹿みたいだよねえ」
「そうだな、莫迦みたいだ」

そういう事情の時に。

「あはは、中嶋君、厳しいね」

弱みに付け込んだみたいじゃないか。

「宮永ではなく」

弱みに付け込まれたのか?

まさか。

「え? じゃあ、誰?」
「……」

答えず。


莫迦みたいだ。

宮永ではなく。

顔も知らない宮永の想い人でもなく。



何故こんな話を聞いちまったのか。


その上。



「聞いてくれてありがとう。なんだか、気楽になった」

そう云うと、
机に開いてあったノートを一枚破って
今日の日付と、
さようなら、の五文字を書く。

綺麗な字だ。

「飛行機って、どうだっけ?」
呟きながら少し考え、此方が何か言う前に思い出したのか、綺麗な指で紙を折り。


翼を持った言葉は
教室を横切って、
開いた窓から外に飛んでいく。

たどり着くのは何処の岸辺か。


この感情は何なのか。


「ハンカチ、洗って返すね。ごめんね、ありがとう」
「要らん。捨てろ」



この胸に宿ってしまった、
厄介な感情と共に。

お前の手で。



捨て去ってしまってくれ。


 

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