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■久々の更新がこれでもいいんでしょうか。
というかんじのタローとサユリの会話です。
ちょっといつもよりタローちゃんが賢い感じになってますが、気のせいです。
サユリさんがちょっと不思議ちゃんになりつつありますが、気のせいです。
人生大体が気のせいで終わります。





彼女のことはかわいいと思う。
平均すれば、他の子より大分好きだ。
彼女にするにはこういう子がいいなあ、とも思う。
まあ、実際そうではないし、これからもそうなることはない。
選択肢にはいってないのだ、お互いに。
 
「それじゃ、今のところは何ともないんだ」
彼女の声にオレはうなずく。
「つーかこれからもたぶん何にもないよ」
「好きなんでしょ?」
「スキだねー」
彼女はオレの向かいに座って、さっきからずっとしかめっ面で雑誌を見ている。開いているページは白と黒の升目で埋まっていて、周りにはその升目から宝物を取り出すためのカギがちりばめられている。
つまりはクロスワード。オレでは絶対戦力にならないし、それは双方わかっているから、わからない言葉を彼女はオレに質問しない。
放課後の教室には人はオレと彼女の二人しかいなくて、傍目に見れば放課後デートに見えなくもないけど、そんな色気は全くない。単純に共通の友人のご帰還を待っているだけだ。放課後に担任に名指しで呼び出しをくらうなんて、我らが友人殿は一体何をしたんだろうか。恐ろしくて聞きたくない。
そういうわけで、待ち時間に話をしてるのは一応恋バナと言えなくもないけど、オレがその対象を言ってないせいで全然話が弾まない。
まあ、弾まなくてもいいんだ。
お互い。
彼女は時間つぶしにクロスワードをしてるわけだし、オレは彼女を見てるだけで結構面白いし。
わからないと言っては顔をしかめ眉を寄せる。わかると嬉しそうに笑って目を輝かせる。ともかくくるくる表情が変わるのだ。少し幼い感じの印象を抱かせる顔の造形と伴って、大変かわいらしく愛らしい。その辺が男女問わず人気のある理由だと思う。
彼女を選んだ友人の目は確かだと思う。そしてそういう、きらきらした明るさにきっと惚れたんだろうな、と勝手に予想する。少なくとも友人はきらきらしたり明るかったりしたりはしない。人間、ないものにあこがれるものだ。たぶん。
考えてみたら、どこがいいの? とか聞いたことはなかった。
そしてこれからも聞くことはないだろう。
聞いたところで答えが返ってくることは、まあ、一生ないだろうし。
「でもさ」
彼女は眉を寄せてしばらく紙面をにらみつけてたけど、ため息をついてからオレのほうを見た。もしかしたら解くのをあきらめたのかも知れない。
「タローちゃんもてるでしょ?」
「まあ、それは否定しない。否定しないけどね、大体、『口を開けなきゃ格好いいのにね』って最後には言われちゃうのよ」
「あー」
「サユリんなにその『あー』っての。何の納得なの」
「ノーコメントにさせてね」
にっこり笑って、彼女はまたクロスワードに目を向けた。
「これ、終わるかなあ」
「ナカジが戻ってくるまでに?」
「そう」
彼女がずっと取り組んでいるクロスワードの雑誌は、実際には彼女のものではなく、友人の持ちモノだ。勝手にかばんから取り出して解き始めた時には、あまりの大胆さに彼女らしくないと思ったけど、結構頻繁に勝手に解いているらしい。
景品付きらしく、解いておいた問題の景品があたるとプレゼントしてくれるのだ、とおおよそ普段の友人の行動からは考えられないような一面を彼女は暴露してくれた。ということはハガキ代も友人がだすんだろうか。何にせよびっくりだ。
とりあえずとてもびっくりしたけど、暴露されたことを知ったら友人は卒倒するだろうと思う。
「サユリんはどうなのよ、順調なのかねお付き合いは」
「私の意見としては、まあ、順調。ナカジくんはなんていうかわからないけど」
「おおむね幸せそうだから、順調だと思ってると思うよ」
「そっか」
にっこり。
嬉しそうに笑っちゃうんだこれが。
「でも、タローちゃんの好きな人が気になるなあ」
「気にしなくていいよ。面白い話じゃないし」
「だって、タローちゃんは私とナカジくんが付き合ってるのを知ってるのに、私はタローちゃんが好きな人知らないんだもん。ずるい」
「ずるいって言われてもねえ?」
「だって、クラスで私とナカジくんのこと知ってるの、タローちゃんだけだよ?」
「うん、まあ、それはほら、役得的な? 立場的な?」
「ずるいなあ」
口をとがらせて、でもそんなに怒った風でもなくて、彼女はまたクロスワードの枠に字を入れる。随分埋まってきた。
「なんていうのかな、オレのは絶対叶わないからね。だから、公表したくないの」
「絶対、なんてわからないじゃない?」
「わかるよ。だって、オレが好きな人、目下熱愛中だもん。恋敵がね、超強力なの」
「横恋慕なんだ」
「もう、これ以上ないくらいにね」
「とっちゃう気はないんだ?」
「さらっと恐ろしいこというねえ、サユリん」
ははは、とオレは笑う。取るだなんて、知らないって怖いな。
「とっちゃったら、たぶんオレの好きな人が悲しむしね、厄介なことに恋敵のこともそんなに嫌いじゃないしね」
「ふうん」
彼女は唇を尖らせて納得いかないような顔をしながらもうなずいた。
「で、誰?」
「今日は食い下がるねえサユリん」
「実はタローちゃんが話をはぐらかすの上手だって知ってるからね」
なんでもないような口ぶりで言って、彼女は上目づかいでオレを見た。
なんとなくその目つきが挑発的で、そういえば彼女が泣いたところ見たことないななんて不意に思い出したりして、なんとなく意地悪な気分なんかになって、それでつい口にする。
「オレの恋敵は、今目の前にいます」
沈黙。
彼女の眼が大きく見開かれる。もともとおっきな目だから、目玉が転げ落ちるんじゃないかと思ったくらい。
「へ?」
ようやく意味が頭に入ったのか、彼女はそんな間抜けな声をあげて。
それから困ったような泣きそうなような表情に顔が歪んでいく。
からん、からん。
唐突に足音。
誰のものか思い至って、瞬間的に彼女を見る。
やべえ泣きそうになってる。
「……うっそぴょん! 信じた? オレってば芸達者!」
へらっと笑って言ったら、「ばかあ!」という声とともにクロスワードの雑誌がオレの顔めがけて飛んできて、ちょうどその場面を目撃した我が友人でありつつ彼女の彼氏であるお方は「お前ら何やってんの?」とあきれた声を出した。たぶん友人は彼女に雑誌を投げつけられたことなんてないだろう。
 
 
うん、でも嘘だとも言えるんだよね。
オレの恋敵が目の前の彼女だっていうのは本当だけど、でも彼女がそう認識しないかぎり、「恋敵が目の前にいる」っていうのは本当にはなりえないし、オレはとりあえず今のところ友人にこの気持ちを暴露する予定も気持ちも持ち合わせてない。
だから、オレのこの思いに恋敵が出てくることはたぶん一生ない。





■この先三角関係になってドロドロしたりはしません。しませんとも。

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